「愛着障害」とはなにか:依存的な対人関係の改善は自己理解から始めよう

「私は愛着障害だから、友人や恋人に依存してしまう」
「親に愛されなかったせいで愛着障害になったから人間関係がうまくいかない」
…このような文脈で「愛着障害」という言葉を使われているのを最近よく目にしますが、そもそも愛着障害とはどういったものなのでしょうか。

「愛着」とは

まず、「愛着」とは、養育者と乳児との間に成立する情緒的な絆のことです。

この概念は発達心理学者のボウルビィが提唱しました。

ボウルビィは、乳幼児の保護施設に預けられた子供たちに、協調性や自発性の欠如などの特徴的な発達の遅れが見られたことから研究を進めました。

愛着は、乳児が養育者に助けを求めるため「泣く」などの行動をしたことに対し、養育者が応答するというコミュニケーションで形成されます。

幼児は、自分の行動で環境を変えることができるという「有能感」や、養育者から微笑まれ、幼児が微笑み返すなどの「感受性」を発達させていきます。

愛着形成を調べる実験

では、この愛着形成が適切に行われないとどうなるのでしょうか。

代表的な実験が、エインズワースのストレンジ・シチュエーション法です。

ストレンジ・シチュエーション法は、乳児とその親を同室に居させたのち、別室に分離させ、その後再開させるという一連の手続きの間、乳児がどういった反応を示すか、という実験です。

実験の結果、主に4つのタイプに分かれました。
最初は親と機嫌よく遊び、親と分離すると不安になり、再開すると親を歓迎し再び一緒に遊び始める「正常群」。
手続きの間ずっと一人で遊んで再開時にも親に興味を示さない「回避群」。
最初から親と離れる不安や恐怖を示し、分離すると酷く混乱し、再開時には親を責めるような行動をとる「両極群」。
この3つのどれにも属さない「無方向群」です。

この実験結果が示すように、親の無関心は「回避群」のようなコミュニケーションの少ない親子関係になってしまったり、逆に過干渉は「両極型」のように子供の分離不安を助長させ、自立を妨げたりする可能性がある…と考えられます。

「愛着障害」の理解について欠かすことのできない「愛着」と「愛着形成」についてご承知おき頂けたかと思いますので、次に「愛着障害とは何か」についてご説明します。

「愛着障害」とは

米国の精神医学会が発行している精神疾患の分類と診断の手引(DSM-5)によれば、愛着障害(Attachment Disorder)には2種類あります。

子供が苦痛を感じたとしても、めったに大人に助けを求めない「反応性愛着障害」と、見慣れない大人にも過度に馴れ馴れしく近づき交流しようとする「脱抑制型愛着障害」です。

しかしこれらの障害は、症状が5歳以前に見られることが診断の条件であり、昨今よく目にする「愛着障害」の使われ方とは乖離している可能性がありますので気をつけてください。

対人関係がうまくいかない場合の「愛着障害」以外の可能性

ストレスの多い環境や、ASD、ADHⅮ、不安障害、抑うつ感、パーソナリティ障害など、ほかの病気や性質が原因の可能性もあります。

また、ストレンジ・シチュエーション法における「回避型」のように、養育者の過干渉が要因となり他責思考が優位に働いたり、自分自身に原因があるという現実を回避し、防衛するために親や環境に攻撃をしたりしてしまっている可能性も考えられます。

「愛着障害」は直らないの?

乳幼児期に養育者との間に形成された人間関係の枠組みは大人になっても継続され、修正するのは困難であると考える学説もあります。

しかし、乳幼児期にこのような愛着の不全感があったとしても、今後の人生がすべてうまくいかないわけでは決してありません。

「PTG」を目指そう

近年、「心的外傷後成長」という現象がおおいに注目を集めています。

「Post-Traumatic Growth」の略語で「PTG」とも呼ばれます。

すなわち、困難な経験をしたとしてもそれを自分なりに乗り越えると、以前よりも心理的に成長する…という現象です。

PTGは、トラウマ体験を単なる恐怖や不安の持続としてそのままにはせず、その人独自のチカラで価値観や世界観を再構築し、人生に新たな意味づけをしたり自己認識を変化させたりし、よりしなやかでタフな自己を創り出すプロセスだと言えます。

「愛着障害かもしれない」と思ったら

乱用されているともいえる「愛着障害」という言葉。
ネットにあふれている診断やチェックテストに踊らされないように気をつけてください。
もし「当てはまるかもしれない」と思ったら、まずはお医者さんの診察を受けましょう。

ちょっとキツい言い方になってしまうかもしれないのですが…
「私は愛着障害だから人間関係がうまくいかないんだ」といったふうな納得感やそれによる安心感は一時しのぎでしかない…という可能性について、考えてみてください。

ややもすると「愛着障害」というカテゴリに依存し、自ら「より良く生きよう」「もっと努力してみよう」といった前向きなチカラを生み出しづらくしてしまうかもしれません。

自己理解問題を解決しようとする志向こそが、QOLや「生きやすさ」を向上させるのではないでしょうか。

あなたのさらなる飛躍を、応援しています。


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石割美奈子(家庭教師カウンセラー)
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参考文献

・日本精神神経学会ほか(2014),DSM-5精神疾患の分類と診断の手引,医学書院

・無藤 隆ほか(2004),心理学(新版),有斐閣